右脳に訴えかける映像。「夏の女性の描き方」をアネッサCM監督が語る

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CMコンセプトに一番近いフレーズを、サビの歌詞にしてもらう。

--2018年のANESSA(以下、アネッサ)のCMは、海に浮かぶ大きな鏡をステージに見立てた演出と、いま注目のバンドNulbarichの清涼感のある楽曲が、とても印象的な映像作品に仕上がっています。

小野:撮影に使用した「鏡」は直径4メートル、総重量1トンあり、都内からロケ地の沖縄までトラックとフェリーで移送しました。アネッサは2017年から、モデルの森星さんをミューズに迎えていますが、見る人に「森星ちゃん、アネッサのCMが一番輝いているよね」と言わせたいという思いでつくっています。

--小野さんは2013年から、アネッサのCMを担当されています。どのようなことを意識して制作してこられたのでしょうか。

小野:アネッサは1992年に発売されて以来、毎年夏になると広告キャンペーンを打ってきました。歴代のCMには年によって個性がありますが、ずっと変わらずに描かれ続けているのは、「夏の記号となる女性」。ぼくはアネッサのCMを通して、夏ならではの開放感や、好奇心をそそられるようなドキドキを女性に感じてほしいと思っています。「うわ、キレイ!」とか「うわ、セクシー!」とか、見ている人が論理的にではなく、本能的に感じてしまうような表現を追求しています。

--アネッサといえば、ケツメイシや星野源、サカナクションなど、その時代を象徴するアーティストとタイアップした楽曲も、毎年話題になりますね。

小野:アネッサのCMは音楽タイアップをとても大切にしています。旬なモデルとアーティストを起用したCMづくりって、昔からよくある手法ではありますが、いまの時代は特に効果的だという実感がある。音楽ファンによる、SNSでの拡散力ってすごいんです。

タイアップでの楽曲提供をお願いするとき、ぼくがアーティストに約束するのは「決して単なるBGMにしない」こと。流行の音楽をただ漠然と映像に乗せるのではなく、CMのコンセプトに一番近いフレーズをサビの歌詞にしてもらい、そこをCMのキーポイントにしています。映像とサビのタイミングをしっかり合わせ、絶対に記憶に残る構造にする。

アーティストに依頼するときも代理店や音楽プロダクションなどを介すのではなく、オリエンテーション用の資料をつくって本人に直接説明します。CMのコンセプトや伝えたいことから、ぼくなりに「そのアーティストがつくったらどうなるか?」と考えた、曲や歌詞のイメージまで。

--具体的に「このフレーズを入れてくれ」と依頼されることもあるのですか?

小野:ありますよ。例えば、蒼井優さんが出演された2013年には「you you you you you sun sun」と入れてほしいとお願いしました。そうして生まれたのが、クリープハイプの『憂、燦々』。バンドで作詞作曲を担当している尾崎世界観さんには「ええ〜〜」って言われましたけど(笑)、頭を下げて。彼が自分のなかで昇華してくれた結果、「憂......憂、燦々」という歌詞になりました。

--そのときのCMはどのようなコンセプトだったのですか。

小野:2010年から2012年の間、アネッサは、海やレジャーではなく日常使用を訴求していました。他社の安い日焼け止めに対抗して、「お肌に優しいから日常で使って」と。でも、強さより優しさを表現していたのでCMに元気がなく、世間でのアネッサの印象が薄くなってしまっていたんです。そこで2013年からは、従来のアネッサが打ち出してきた「最強の夏の女」をふたたび表現しようと、「強さ」に舵を切りました。

このコンセプトから生まれた「you you you you you sun sun」という繰り返しのフレーズには、口ずさむと、蒼井「優(you)」さんと強い夏の「太陽(sun)」が記憶に残るのではないかという狙いが込められていたんです。

CM撮影中の様子
CM撮影中の様子
アーティストへのタイアップ依頼時には、熱意のこもったオリエン資料やコンテを用意して臨む

グラフィックがつくれれば、同じようにムービーもつくれる。

--小野さんはアネッサについて、CMやデジタル、雑誌広告、パッケージも含めたすべてを統括するクリエイティブディレクター(以下、CD)と、CMの演出やディレクションを担当するCMディレクターを兼任されているそうですね。

小野:はい。私が携わったここ6年間のアネッサのCMについてはすべて、CDとして企画をまとめたものを、CMディレクターとして自らかたちにしています。企画段階で思い描いたアウトプットを理想通りに実現できるので、アネッサをはじめ、自分の頭に完成イメージがはっきりとできているときにはこの方法をとっています。

一方、CMディレクターを誰かに依頼することで、自分の想像以上のものができる可能性が高い場合もあります。そんなときは潔く、CMディレクターはほかの人に任せる。CDとして、その判断は冷静に下すようにしています。逆に「自分でやる」と決めたら絶対に失敗できないので、緊張感がありますね。

--総指揮官がCMディレクターを兼ねるうえで、気をつけていることはありますか。

小野:オープンに、周りのスタッフの意見を仰ぐように意識しています。「些細なことでもいいから、気づいたことがあったらとにかく言ってくれ」と。またここ数年のアネッサのCMでは、自分で企画を考えるのをやめました。アイデア出しはチームのアートディレクターやコピーライターに任せて、ぼくはそれをまとめることと、演出に徹する。そうしたら、表現の幅がとても広がったんです。

例えば2017年のCMでは、森星さんが海へ向かうランウェイを歩いていますが、これは髙田くんというアートディレクターのアイデア。もともとは海が干潮のときにだけ現れる砂浜の道を舞台にというアイデアでしたが、条件が揃わないと撮れないこともあり、いっそうのこと人工的に道をつくる方法を選びました。結果として、モデルである森星さんにとって、このランウェイはとても似合っていた。

--若い人に任せることで、後輩育成にもつながりそうですね。

小野:そうですね。ムービーはいまやテレビだけでなく、ウェブサイトやSNSでも配信できるようになり、チャンスがますます広がっている。これからはぼく以外のアートディレクターにも、ぜひムービーをつくってほしいと思っています。

ムービーには特別な知識が必要なのではと思われがちですが、レイアウトやトリミング、レタッチなど、グラフィックのアートディレクターとしての高い技術があれば十分できるはずです。さらには音楽や音声、尺の長さといった静止画にはない要素もあるので、表現の幅が広がって楽しいですよ。

紙一重のところに挑戦しないと、記憶に残る「夏の風物詩」にはなれない。

--小野さんは、もともとグラフィックデザイナーとして資生堂に入社したそうですね。現在も本職はクリエイティブディレクターですが、どういった経緯でCMディレクターを務めているのでしょうか?

小野:資生堂宣伝部(現クリエイティブ本部)は、昔から優れたアートディレクターの集まりだったんです。でも、ぼくの青春期にあたる1970年代後半から1980年代頃は、テレビ全盛期。グラフィックのポスターや雑誌広告はもちろんのこと、テレビの影響力は絶大だった。資生堂でも矢沢永吉やラッツ&スターのような、一番売れているミュージシャンとタイアップしたCMをつくって、商品が爆発的に売れる、というのがお約束だったんです。

ぼく自身もその頃見ていたCMをきっかけに、資生堂に憧れて入社しました。しかしぼくが入社した当時、じつは資生堂のCMを企画したり演出したりするのは外部のクリエイターの場合がほとんどだったんです。入社後にそれを知って、「もったいないなぁ......ポスターとかと同じように、資生堂の社員が自分でやればいいのに」と思ってしまいました。

--憧れとのギャップを感じてしまったんですね。

小野:20代後半くらいから、「ムービーにも携わりたい」と思うようになりました。それからCMプランナーを任されるようになり、企画をするのはもちろん、撮影や編集には必ず立ち会うように。そうして場数を踏めば踏むほど、ビューティーの専門家である資生堂のメンバーこそ、自分たちでCMもつくるべきだと思うようになっていったんです。

これまでに200本近いCMに携わっていますが、「女性のビューティーの追求」と「音楽タイアップ」の経験値に関しては、社外にも堂々と胸を張れると自負しています。

--アネッサ以外には、どんな音楽タイアップCMに携わってこられたのでしょうか。

小野:1990年代後半から2000年代前半にかけてPUFFYやSPEEDといったアーティストとコラボしたヘアケアブランド「TESSERA(ティセラ)」にはじまり、美容食品と化粧品の「IN&ON(インアンドオン)」では斉藤和義さんの『ずっと好きだった』とのタイアップなども担当しました。

--豪華なアーティストとコラボした商品は当時も話題でしたし、楽曲も売れていましたね。男性である小野さんが、女性のための商品をプロモーションすることについては、どのように考えていらっしゃいますか?

小野:共感や親近感に優れたCMは、女性の現実をよく知っている女性のほうが、いいものをつくることができると思います。でもその一方で、ドキドキさせたり、ハッとさせたり、女性自身が気づかないような魅力に気づかせる、そういうものは男性こそがつくれると信じている。

アネッサのCMでも、「女性に好かれるセクシー」と「嫌われるセクシー」の見極めは非常に大切だと思っています。でも、そのきわどい部分に挑戦して女性を描いていかないと、記憶に残る「夏の風物詩」には決してなれないんです。

--困難を乗り越えた先に、アネッサをはじめ、人々の印象に強く残るようなCMが完成するんですね。

小野:うーん......でもじつは、困難だと感じたことはなくて。普段から「どうしたら女性が喜んでくれるだろう」って考えるのが好きなんです。根っからのフェミニストなんですね(笑)。仕事では「どうしたらこの女性を一番キレイに見せられるだろう」と考えるわけですが、ちっとも苦にならない。むしろ楽しい。ぼくにとって、いまの仕事は天職だと思っています。女性が幸せになればなるほど、世の中すべてが幸せになると思うんですよね。

2018年 アネッサプロモーション
2016年 アネッサプロモーション
2015年 アネッサプロモーション
Credits
Shiseido Creative Division
CD / Dir
小野 健
AD / PL
髙田 大資
C
山本 邦晶 / 永岩 亮平
P
渡辺 桂子
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