再生回数770万回超えの動画『The Party Bus』が伝える、メイクの力

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バズらせるだけでなく、ビューティーの持つ本質的なメッセージを発信できるものに

--2018年のハロウィンの時期に公開された『The Party Bus 好きだなんて 言えない』が、フランス発の国際広告賞『Epica Awards』のフィルム部門でグランプリを受賞しました。また、再生回数は2018年12月現在で770万回を超えています。これほど大きな反響を集めることになった本プロジェクトは、どのような経緯で始動したのでしょうか?

小助川:そもそもの始まりは、2015年に制作された『High School Girl? メーク女子高生のヒミツ』というWeb動画にあります。これは、弊社のメディア統括部がバズの研究をしたいということでスタートしたのですが、結果として1000万回以上再生され、『カンヌライオンズ』など名だたる広告祭で賞を受賞し、大きな成功を収めることになりました。

それによって第2弾を待望する声が高まり、部内でアイデアコンペをすることに。最終的に15人から80ほど提案があり、そのなかでバズが期待できるもの、かつ実現性の高いものを『High School Girl? メーク女子高生のヒミツ』を手がけた柳沢翔監督と一緒にピックアップしました。そこで選ばれたのが、「世界初、化粧品で描かれた本格アニメーション」というアイデアです。

--80案ある中で、何が決め手となって今回のアイデアで進めることになったのでしょうか?

小助川:大きなポイントになったのは、インターネットの文脈にマッチするか。いわゆるバズを生み出せるかですね。とはいえ、企画が動き始めた2016年末は、トランプ氏が大統領選に勝利したことをきっかけに世界の対立構造が可視化された時期でもありました。そのため、資生堂としても単に再生回数を伸ばすだけではなく、ビューティーの持つ本質的なメッセージを発信したいという考えにシフトしていきました。

--原案からどのようにブラッシュアップしていったのでしょうか?

植木:いちばん大きかったのは、資生堂としてのメッセージ性をどのように盛り込んでいくか。それは柳沢監督をはじめ、チームのみんなで膨らませていきました。そして出てきたのが「メイクは勇気だ」というコンセプトです。

2015年に公開し、大きな反響を呼んだ『High School Girl? メーク女子高生のヒミツ』

総カット数1970。メイクによる感情の変化をストップモーションで表現

--今回のショートフィルムは、メイクによる感情の変化が印象的でした。こうした演出はどのように決まっていったのでしょうか?

小助川:2015年の『High School Girl? メーク女子高生のヒミツ』でも「メイクの力」がテーマになっていたのですが、今回はメイクが人の気持ちにどのように作用するかを表現したいと考えました。それは柳沢監督とメイクを担当した弊社の百合佐和子が、すごくこだわったところでもあって。

石井:『The Party Bus』という空間自体に世界観があり、しかもライティングによってメイクの見え方が変わってくるので、何度も発色をテストして撮影に挑んでいます。

小助川:結果として、本当に自分に合ったメイクを見つけることができたら、自分自身がエンパワーメントされることがうまく表現できたと思います。

--かぐや姫のメイクが変化するシーンは、ストップモーション(コマ撮り)が取り入れられています。資料によると全部で1970カットあるそうですね。しかも実写とアニメーションが組み合わさっているので、とても大変だったように想像します。

小助川:そうですね。これまでやったことのないくらいの正確さが必要でした。とくに準備の段階がすごく大変で。アニメーションについては、事前に人物のモーションを取り、それをもとにメイク道具で描いています。実写部分については綿密なオペレーションが必要だったので、かぐや姫役のエレーナ・アンさんの顔のデータを採取して、何度もカメラのアングルなどを試して本番に臨みました。

本番ではワンカットずつライティングを変え、それに合わせてヘアメイクも調整しなければいけなかったので、エレーナさんはとても大変だったと思います。撮影中はほとんど顔を動かすことができませんでしたから。すべてを撮影するまでに4日を費やしたのですが、おそらく世界でもやったことのない手法だったのではないでしょうか。

石井:あと、音楽を最後の最後まで粘りました。どこの国にあるのかもわからない空間に流れる音楽として、また、かぐや姫のストーリーを伝えるために、何が最適なのかを試行錯誤し、かなりバリエーションを試しました。結果的にオリジナリティーの高い楽曲になったのは、ここまでトライをした成果かなと思います。

植木:その「どこの国の出来事かわからない」という感覚は音楽以外でも大事にしました。例えば出演者。主演の3人を含めて、ほとんどがハーフやミックスなんです。また、衣装に関してもひと目では男性か女性かわからない。そういった部分は、柳沢監督がすごくこだわっていました。

かぐや姫のメイクが変化するシーンは、ストップモーションの絵コンテ
絵コンテの一部
かぐや姫の衣装イメージ
ドラキュラの衣装イメージ

メイクは人種や性別を超えて作用するものである

--そういう意味では『The Party Bus』が多様性のある空間であると同時に、人種や性別を超えて、人間として「誰を好きか」ということを伝えたい場になっているのかなと感じました。

石井:深読みしようと思えば、いくらでもできる演出になっていると思います。例えば、今回はドラキュラ役のえんどぅさんもネイルをしたり、顔にラメをつけたりといったメイクをしているのですが、それによって普段より大胆な男性になっているという設定もあるんです。

--メイクが性別関係なく作用することが表現されているわけですね。それでいうと、仮面をつけたゾンビサムライが男性かと思いきや、実は女性だったことに大きな衝撃を受けました。この演出は、バズのギミックとしても効果的に作用したと思いますが、それ以上にLGBTの問題に踏み込んでいますよね。

小助川:こうした表現ができた背景には、ここ数年でLGBTへの理解が社内で急速に進んだことがあります。

弊社では、以前から『東京レインボープライド』などのLGBTの啓蒙活動に積極的に取り組んでいたのですが、あくまでボランティアの範疇でした。それが2017年7月に、ある条件を満たせば既婚のカップルと同じ制度を同性カップルでも受けられるようになり、それと同時にレインボープライドへの協力も事業としてやっていくことになりました。

また、2018年4月8日の創立記念日には『LOVE THE DIFFERENCES. 違いを愛そう。』というダイバースビューティーに関する新聞広告を打ち出すなど、社内でも機運が高まってきた。それで今回のような大胆な手法に挑むことができたんです。

--そうした映像の演出はWebサイトでも効果的に表現されていると感じました。これはどのように設計していったのでしょうか?

矢村:そもそもの映像がすごくよかったので、それを体現できるコンテンツにしようと考えました。その中でキーワードになったのが「バックステージ」です。今回は人種や性別の問題など、すごくセンシティブな部分も多かっただけに、撮影の裏側を見せることでバランスをとるようにしています。

小助川:今回はテーマが難しかったので、それを補助する役割をWebサイトが果たしていると思います。ショートフィルムを見て興味を持ってくれた人がネタ探しにやってきて、さらに話題が広がる設計になっているのではないでしょうか。

矢村:例えば、サイトのトップは本編映像がハイライトで流れているのですが、クリック&ホールドするとメイキングシーンに切り替わるようになっています。また、スタッフが撮影した写真を集めて、それを掲載するページも作成しました。本編では険悪なムードが漂っているかぐや姫とドラキュラの仲睦まじいショットが見れます。

撮影時のオフショット
撮影時の様子
撮影時の様子

さまざまなミラクルがあり、社会的な背景と見事にマッチした作品に仕上がった

撮影終了後の、全員での集合写真

--公開から約2か月が経ちました。世界から反響を受けている点についてどのように感じていますか?

植木:表現としてセンシティブな部分があったので、公開前はとても不安でした。もともと夏頃に公開する予定で進行していたのですが、結果として2か月ほど遅れてハロウィンの時期に公開することになりました。

小助川:本当はハロウィンと無関係だったんです。でも、衣装も含めてハロウィンぽい雰囲気があったので、結果としてよかったのかもしれませんね。

石井:『SHISEIDO』のブランドリニューアルが9月に決まっていたのですが、公開時期を見誤ると相乗効果を発揮できない懸念もあったので、そこは慎重になりましたね。

--いろいろとミラクルが起こったんですね。

--結果的に今回のプロジェクトでも成功を収める結果となり、次回作についても注目が集まっているのではないかと思います。全体を指揮した小助川さんは、次に向けて何か考えているのでしょうか?

小助川:まだ終わったばかりなので、正直なところしばらくは考えたくないです(笑)。とはいえ、クオリティに集中できるプロジェクトもなかなかないのも事実。やることがはっきりしていて、全員がいいものをつくりたい、いいメッセージを届けたいという熱があったからこそ、今回の結果に繋がったのではないでしょうか。

Credits
Shiseido Creative Division
CD
小助川 雅人
P
石井 美加
CW
植木 彩
DCP
矢村 智明
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