資生堂のメッセージ「LOVE THE DIFFERENCES.」が伝える多様性

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日本と海外とでは「ダイバーシティ」のニュアンスは異なる

--創立記念日である2018年4月8日に公開された、資生堂の企業姿勢を伝えるコピー「LOVE THE DIFFERENCES. 違いを愛そう。」はどのように誕生したのでしょうか。

鐘ヶ江:これまでは、正月に合わせて企業広告をグローバルに発信していたのですが、2018年はそれを創立記念日に打ち出すことになりました。そこで今回、あらためて「ビューティーとは何か?」を定義しようと考えたのですが、その土台になったのが、2017年の企業広告で打ち出した「世界はBeautyに満ちている。」というコピーです。このときは、ビューティーはひとつのアイコン的概念で、一人ひとりに美しさがあるというメッセージを発信したのですが、それをさらに発展させようと。

そこで、人類には共通の文化としてビューティーがあると仮定し、世の中にはさまざまな壁があるけれど、資生堂がビューティーで世界を繋げるにはどうすればいいかを議論したんです。そのときに「ビューティーの前に壁はない」や「Beauty has No border」「Without border」などのキーワードが上がりました。ただ、「ビューティー」と「壁」では言葉のレベル感がかなり違う。社会的なメッセージになりすぎている節もある。そこから、もっと日本特有の考えがあるのではないかと方向性を変えました。

--グローバルで発信することを日本というローカルに置き直し、さらにグローバルな表現にしていこうと考えたわけですね。

鐘ヶ江:はい。その段階でコピーライターから「違いを愛そう。」という日本語のコピーが提案されました。そのときに考えたのは「ダイバーシティ」の概念です。日本語で「多様性」と訳されることが多い言葉ですが、実は完全にイコールの言葉ではないんですね。「ダイバーシティ」は、それぞれの違いを区切ったうえで認め合うという意味があるのですが、「多様性」は違いを受け入れて尊重し認め合う意味があります。日本には八百万神(やおろずのかみ)に代表されるように、日本古来の観念はもちろん、外来のものも受け入れてリスペクトしていく考えがありますよね。それが「多様性」なんじゃないかと。そこに主軸を置いて生まれたのが、現在のコピーの原案でした。そこから、我々が伝えたい「多様性」の細かなニュアンスが世界に伝わるよう、コピーライターのマイクに参加してもらって。

マイク:いろんなことを話していきましたね。何度も意見交換をしながらさまざまなオプションを提案して。

鐘ヶ江:あとは本当に細かい手直しがありました。英語として意図が伝わりやすくするためには、大文字にするのか、小文字にするのか、複数形にするのか、冠詞を入れるのかと。

マイク:本当に小さくて細かなことなんですけれど、たくさん時間をかけて練りこみましたね。

鐘ヶ江:あと、最初は「LOVE THE DIFFERENCES.」の次の行に「Hello Beauty」という言葉もあったんです。「ここからビューティーが生まれるんだ」というところまで伝えようと。でも、少し甘いというか、よくある表現になってしまう。それもマイクと相談しました。

マイク:「違いを愛する」ということをいちばんに伝えたかったので、最終的にはシンプルに「LOVE THE DIFFERENCES.」となりました。

2007年の企業広告「美しさ、じぶんらしく」
2014年の企業広告「美しき挑戦者たち」
2017年の企業広告「世界はBeautyに満ちている。」
「LOVE THE DIFFERENCES.」ボディコピー

センシティブなテーマである以上、英訳で誤解を招かないよう細心の注意を払った

--先ほど「ダイバーシティと多様性はニュアンスの違う言葉だ」と鐘ヶ江さんから発言がありましたが、その違いをマイクさんはどのように英語で表現したのでしょうか?

マイク:特に強調したのは「違いを受け入れる」という部分でした。日本語で言う「多様性」には違いを認める事に止まらず、他者の違うところを肯定して受け入れるという意味が含まれているという点に着目し、キャッチコピーなどの様々な場面で、その意味が伝わりやすい表現にしました。また、ダイバーシティは、海外ではセンシティブな話でもあります。表現によっては誤解を招くことがあるので、細心の注意を払いました。

--今回のコピーは、「多様性をただ認めるだけではなく、異なる価値観に共感しながら、新しいものを生み出していく」という企業としての意志が感じられました。

鐘ヶ江:ひとつ軸に置こうと考えたのは、違いを「壊す」のではなく、違いを「愛する」ことで新しい価値が生まれるということでした。資生堂の考えるイノベーションはそこから始まるんだ、と。多様な価値観を持った人が出会うことで、もしかしたら軋轢や妥協が生まれるかもしれない。けれど、よりよい世界に導くこともできる。それを伝えたいと考えました。

マイク:まったくその通りです。同じバックグラウンド、同じ考え方、同じ人生を歩んできた人が集まったら、争いのない平和な世界が実現するかもしれません。でも、それで本当に新しいものが生まれるのか。それを考えると、違いに感謝することが重要なのだと感じます。

完成したコピーが、自分たちの活動をみつめ直すきっかけに

--今回の「LOVE THE DIFFERENCES.違いを愛そう。」のコピーを起点に、魚谷社長からの社内向けのメッセージも制作されたと伺いました。どのようなことに意識を配ったのでしょうか?

マイク:社内向けのメッセージを作るうえで魚谷さんとはかなり密なコミュニケーションをしました。いちばんに考えたのは、このメッセージを受け取った人が自分ごとに思えるか。そして、海外も含めた全世界の資生堂で働く人々が「やるぞ!」と思えるようなものになるか。今はどんな企業もダイバーシティを掲げています。でも、言葉にするのと実践するのではまったく違う。私自身、このプロジェクトに携わることで、資生堂がビューティーカンパニーとしてダイバーシティに取り組んでいることが実感できました。

鐘ヶ江:創立記念日に発信した後、CSR部門や社会活動を推進している部門など、社内のさまざまな部署から連絡があったんです。このコピーを旗印に我々の活動をみつめ直したいんだと。いろんなところで「LOVE THE DIFFERENCES.」という言葉が広がっています。

--今回のプロジェクトで得た教訓をどのように活かしていきたいですか?

鐘ヶ江:この第2弾を作っていくというより、「LOVE THE DIFFERENCES.」という言葉がすべてのクリエイティブの土台になる気がしています。

マイク:そうですね。この「LOVE THE DIFFERENCES.」がプラットフォームになり、その先について考えることができると思います。それをこれから私たちでやっていきたいですね。

「LAVENDER RING」活動でのコミュニケーションメッセージとして活用
「Rainbow Pride」におけるコミュニケーションメッセージとして活用
Credits
Shiseido Creative Division
ECD
鐘ヶ江 哲郎
CD
小助川 雅人
AD
竹田 美織
C
マイク・バーンズ
C
永岩 亮平
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