
--ルームフレグランスというのは資生堂でも珍しい商品ですよね。
廣川:ルームフレグランスを単体商品として展開するのは珍しいですね。香りの方向性は、資生堂のリサーチセンターが研究している、リラックス効果のあるアロマコロジー(アロマとサイコロジーを組み合わせた造語)技術を取り入れた、桜の香りを採用しています。資生堂としては珍しく化粧品以外のブランド立ち上げだということで、関係者が一丸となり、猛烈な勢いで協議と検証を重ね、「HANASAKURA」という、日本の四季を表現する新しいフレグランスが誕生するに至りました。
--深い森のようなパッケージのイラストが印象的ですが、コンセプトを教えてください。
廣川:ビジュアルコンセプトを探して行く過程の様々な資料の中で、闇に浮かぶ桜の花を愛でることは日本的な感覚だということで、「夜桜」のイメージに決まりました。そこから資生堂が美の表現技法として培ってきた唐草表現と、夜の桜の森をかけ合わせたイメージをイラストレーターの方に描きおこしていただきました。絵は、左右対称の樹を中心に森が広がって行く構図にしています。絵柄はシンメトリックなようで、よく見るとそうではない。どこからが桜の樹でどこからが散っていく花びらなのだろうか、など。夜闇のように曖昧な部分を大事にしました。
--かなりディテールにこだわったデザインになっていますね。
廣川:パッケージは一見モノトーンですが、桜色は表面に主張しない色として扱いました。夜桜は強く色が主張してくるものではないと考え、夜の中で淡く桜色が浮かび上がる光景をパッケージに表現したいと考えました。今回、商品ロゴも新たに制作しました。昔の資生堂フォントやロゴをベースに仕上げています。キャンドルグラスは、上質なあかりを演出するように、光の透過性が高いハンドメイドのクリスタルグラスを採用しているなど、素材にもこだわっています。室内のインテリアに合うよう、物としての重厚感や生活に寄り添える存在感を心がけました。
--伊勢丹新宿店の売り場ではどのように展開されたのでしょうか?
小林:主に生活雑貨が中心のリビングフロアでの展開なので、普段の化粧品売り場をつくるという仕事とは異なるものでした。そこで、「美しい生活文化の創造」という資生堂の理念に立ち返り、テスターやディスプレイ機能だけではなく1920年代の資生堂の広告マッチやフレグランスを一緒に展示し、お客さまに資生堂商品のバックグランドやデザインミームを感じていただく場にしました。 また、企画のコンセプト「JAPAN SENSE」を表現するため、商品の香りが桜ということからも本物の桜の木を素材として夜桜のイラストを立体的に見せるパネルを考案しました。このパネルの絵は印刷ではなく一つひとつ色えんぴつのタッチで描いています。手仕事ならではの繊細でやさしい表現になったと思います。また、木材の側面に差し色の桜色を彩っているのもポイントです。
--桜の木を中心に置くことで、洗練された日本のデザインといった印象を受けますね。
小林:一方で、純日本的な印象ではなく資生堂ならではの西洋の雰囲気を少し感じていただけるような工夫もしています。今回、ロゴが大正時代のものを参照していることや、西洋の香りの文化であるアロマキャンドルをどうテイスティングしていただくかを考え、少しエレガントな形状のガラスドームに香りをためて試していただく方法をとりました。こういったテイスティングスタイルは、ヨーロッパ市場ではよく見かけるものですが、ガラスドームを手に取る仕草も魅力の一つだと思います。資生堂として、ものを取り巻く姿や行為も含めて香りの文化を伝えることができればと思います。