福原信三の思想にフォーカスした展示の裏側。連動した「ふきだし」アートも

SHARE

資生堂ギャラリーの創設者であり初代社長でもある福原信三にフォーカスした特別展『それを超えて美に参与する 福原信三の美学 Shinzo Fukuhara / ASSEMBLE, THE EUGENE Studio』が2019年3月に開催されました。

本展は、福原信三が残した「言葉」と「思想」に、社会やコミュニティーといった現代的なキーワードからアプローチしたもの。さらに、本展と連動したウィンドウディスプレイが、資生堂パーラーと銀座資生堂本社で展示されています。本展の企画を担当した伊藤賢一朗(資生堂ギャラリー 学芸員)と、ウィンドウディスプレイを手がけた丸橋桂(アートディレクター)に、その多面的な展示背景を聞きました。

銀座資生堂のウィンドウに展示された、電光掲示板のウィンドウアート

資生堂初代社長の福原信三。AIを駆使してあぶり出された、100年前の彼の思想や言葉

--『それを超えて美に参与する 福原信三の美学 Shinzo Fukuhara / ASSEMBLE, THE EUGENE Studio』展が企画されたきっかけを教えてください。

伊藤:福原信三は、資生堂の化粧品作りやデザインの基礎を築いたほか、近代日本の先駆的な写真芸術家としても知られています。2019年に資生堂ギャラリーが開廊100年を迎えるにあたり福原の活動を振り返って精査してみると、経営者として、また写真家としての活動をはるかに超えた現代的な芸術家としての姿が浮かび上がりました。

これまで、写真家としての福原信三がフォーカスされた展示は開催されてきましたが、これからの時代の美意識や創造性に対して展覧会が何を訴えるべきかを考えた時に、彼の思想や言葉を取り扱いたいと思ったのです。

--福原信三は、どういった言葉を残していたのでしょうか。

伊藤:福原は、自ら写真を撮るだけではなく、写真という芸術をより多くの人々の生活に広めていく活動も牽引してきました。当時のアマチュア写真家のためのサークルを発足し、さまざまな普及活動を通して写真の芸術的価値を伝え続けています。その一つが、文章によって写真という新しい表現ジャンルの芸術的価値を再定義することでした。

彼は、200本近く、文字数にして140万字以上の文章を残しています。それらの言葉をただそのまま展示するのではなく、現代の文脈と接続させたかたちで展示したいと考えました。そこで、アート×テクノロジーの領域を得意とするユージーンスタジオの協力により、福原の言葉をAI(人工知能)の自動言語分析にかけました。

--AIによる自動言語分析とは、どのような作業なのでしょう。

伊藤:単語の使用頻度などから、思考の重要度を分析しました。そのアウトプットに対して知識を持った人間が介在し、ディスカッションしながら福原の思想をあぶり出していきます。これにより、言葉の関係性が顕在化し、彼の思考の多くを占めていたと思われる「写真」を通して彼がどのように社会を見てきたかがわかってきたのです。

その一つに「場作り」というキーワードがあげられました。コミュニケーションスペースを作り、そこに人を集める。それは、銀座の街における「資生堂パーラー」そのものとも言えます。この「場作り」を軸に、イギリスの建築家集団ASSEMBLEとのコラボレーションを行うことに決定しました。日常の中にアートを取り込み、日常とアートを交差させることは、ASSEMBLEと資生堂とが深く共感し合う思想です。現在、資生堂ギャラリーで行っているワークショップは、その思いに基づいています。

『それを超えて美に参与する 福原信三の美学 Shinzo Fukuhara / ASSEMBLE, THE EUGENE Studio』展示風景(撮影:加藤健)
『それを超えて美に参与する 福原信三の美学 Shinzo Fukuhara / ASSEMBLE, THE EUGENE Studio』展示風景(撮影:加藤健)
福原信三による作品『塔』(1938年)
福原信三による作品『光と其諧調より』(1922年)

ギャラリー、パーラー、花椿、店舗。それぞれの場所とメディアで、文化的・美的な生活を人々に届けていく

--展示のタイトルにもなっている「それを超えて」という部分には、他者とコラボレーションしながら互いの思想を深め、外縁を広げていく姿勢も感じられます。

伊藤:時間や国境を超えて、福原信三、ユージーンスタジオ、ASSEMBLEの思想がコラボレーションした企画だと言えます。また、先端技術であるAIを用いたことも、そういった集合的な創造性を高めることに与するものです。今回の展示は、そういった思想を多くの人に知ってもらいたいという想いから行っています。人が集まる場で新しい価値観を発信し、芸術や文化価値を循環させることも、福原信三の目指すところでした。

--近年、場所やコミュニティー作りが重視されていますが、そうした思想が100年前からあったことに驚きます。

伊藤:ギャラリー、パーラー、花椿、そして資生堂のチェインストア。場所とメディアによって新しい価値や情報が流通する仕組みを作り、人々に届けていく。我々は製品をつくって販売するだけではなく、人々の生活を社会の中で文化的・美的に高めていくことを目的としています。

福原の言葉を、現代人に馴染みのある「ふきだし」に入れたウィンドウアート

--さらに今回、資生堂ギャラリーと銀座本社のウィンドウディスプレイや壁面には、本展に連動した作品が展示されていますね。

丸橋:本展示の世界観を補強するため、また多くの人に展示を知ってもらうためのタッチポイントを増やすことを目的として、このような連動作品を展開することにしました。

制作するにあたり、福原の言葉を、ユーモアや現代的な価値観を付加して表現したいと思いました。そこで考えたのが、現代社会で誰もが馴染みのある、LINEなどSNSでのコミュニケーションの象徴である「ふきだし」を取り込むことでした。このふきだしを目にするのは、スマホやパソコンの画面の中のデジタルデータですが、これを電光掲示板としてリアルな物質として展示することで、ちょっとした違和感を出したいと考えたんです。現存するものの視点を変えて、別のものに置き換えるという発想ですね。

--福原信三が残した数々の言葉が、現代社会に結びついた作品ですね。

丸橋:「商品をしてすべてを語らしめよ」という福原信三の代表的な言葉をはじめ、生命、カメラ、創作、詩など、さまざまな領域の言葉を英訳も含めて、このふきだしの中に入れて展示しています。

伊藤:福原信三は、化粧品とは社会という大きなキャンバスを美しく描くためのものだ、という思想を持っていました。AIで抽出されたワードを俯瞰的に見ると、その思想の領域や広がりがよく理解できます。今回の展示は、そういった意味合いでも100年の節目に未来を見つめることにふさわしい内容になっていると思います。

銀座資生堂ロビーの壁面に展示された作品

資生堂パーラーに展示された作品

Credits
Shiseido Creative Division
PL
伊藤 賢一朗
AD
丸橋 桂
SHARE
このページの先頭へ