化粧品と車。異色タッグが生み出した、ふれて感じるダイナミックな美

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「美」でつながる、化粧品とカーデザイン

--資生堂銀座ビルのショーウィンドウに巨大な彫刻作品が登場していて驚かされました。今回の作品、「TOUCH THE BEAUTY」のアイデアはどこから来たのでしょうか?

駒井:このショーウィンドウはコーポレートメッセージを発信する場で、通年で「感性」をテーマにしてシーズンごとに作品を入れ替えています。今回は私が担当だったのですが、ちょうど同ビルの花椿ホールで『LINK OF LIFE さわる。ふれる。美の大実験室』展が開催される時期だったということもあり、展覧会のクリエイティブディレクター藤原大さんから、「さわる。ふれる。」にも関連したテーマで制作できないか? と提案をいただきました。

--車のクレイモデルで使われる粘土でできているそうですね。

駒井:クリエイティブディレクターや藤原さんとウィンドウのアイデアを練っていたとき、車のクレイモデルが面白いという話になったんです。クレイモデルとは、カーデザインをはじめとしたインダストリアルデザインの分野では一般的なものですが、車のスタイリングなどを検討するときに用いられる工業用粘土を使った実物大のモデルのことで、クレイモデラーと呼ばれる職人が目と手の感覚を頼りに美しい造形を仕上げていきます。その行為や時間そのものが、「さわる。ふれる。」を体現しているのではないかという話になりました。そこで、化粧品とカーデザインというまったく異なる分野の「美」を融合させるという試みにチャレンジしてみようと思ったんです。

--オブジェのモチーフは「唐草」だそうですが、これまでの唐草の印象を変えるダイナミックさが印象的ですね。

駒井:資生堂のDNAともいえる「唐草」のモチーフは、一世紀にわたり資生堂のデザイナーが手で描いてきたものです。人の手によって紡がれてきた2次元の「唐草」を、手で触ることができる3次元の物体として表現することで、「唐草」のもつリズミカルで生命力に溢れる曲線を多くの人に体験してもらいたいと思ったんです。

TOUCH THE BEAUTY
TOUCH THE BEAUTY

空間を変容させる、ダイナミックな彫刻作品

クレイモデラーの作業風景

--作品はどのようなプロセスでつくられていったのでしょうか。

駒井:初めは唐草が細かく広がっていくようなイメージを想定していたのですが、カーモデルを専門とする職人のところへ行って実際につくられたクレイモデルを見てみると、よりダイナミックな造形を得意としていることがわかりました。そこで、リチャード・セラ(米国の彫刻家。彫刻の中に入り込むことができる作品「インサイドアウト」などが有名)が生み出す巨大でミニマルな彫刻作品などをヒントに、大きな物質のもつダイナミズムを優先させることにしました。

--2つの大きな唐草はそれぞれ表情が異なりますね。どのようにして職人の方とイメージをすり合わせていったのでしょう?

駒井:同じ形をした2つの唐草モデルを組み合わせて、それぞれの手触りやディテールから異なる表情を見せていきたいというアイデアをまず初めに伝えました。その後、骨組みがつくられ、ひとつの塊に対して1人の職人が2週間くらいつきっきりになって造形の試行錯誤を繰り返してくれました。粘土を乗せて、削って......何度も何度も人の手が加わることで、絶妙なラインの凹凸やなめらかさが生まれてくるんです。僕は普段からプロダクトデザインをやっているので、立体をつくるという点では職人と共通する部分があり、意外と意思疎通がスムーズだったのが面白い発見でしたね。目指すイメージに対してどうしていくべきかという勘所が似ていたように思います。

--実際に完成した作品を見て、どんな感想を持たれましたか。

駒井:いままでウィンドウディスプレイで作品をつくるとき、図面上で見たときはよくても、現場に出してみると意外と細々して見えてしまうことも多かったんです。今回作品をつくってみて、初めは違和感を感じるくらいの大きさでも、空間に置かれたときにモノとしての強みが出ることを知りました。クレイモデルを使って気づいたもうひとつの点は、仕上がったときの手作業の美しさ。人の手で一つひとつつくりあげるクレイモデルの考え方は、今後パッケージデザインを行うときにも意識していきたいですね。

クレイモデラーの作業風景
TOUCH THE BEAUTY
Credits
Shiseido Creative Division
CD
信藤 洋二
AD
駒井 麻郎
C
永岩 亮平
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