
--資生堂パーラーのバレンタイン限定パッケージを担当されたとのことですが、異国の風景をエレガントに描いたこのデザインへと至った背景を教えてください。
竹田:ここ数年のバレンタイン市場は、男性に贈るものだけではなく、自分用や同性に贈るいわゆる「友チョコ」の需要が増えてきました。資生堂パーラーでも、昨年までは男性へのギフトをイメージしたクラシカルなデザインが中心でしたが、今年は振り切って、女性が「ほしい!」と思えるデザインに転向したんです。「メリー・メリー・エレガント・バレンタイン」をコンセプトに、ハッピーで華やかなパッケージにしたいと考えました。
--今回のパッケージデザインテーマは「ショコラを探す旅」。「バレンタイン」と「旅」の組み合わせは新鮮ですね。
竹田:アートディレクターの近藤から挙ってきたテーマ案が「森」と「旅」でした。華やかなビジュアルが求められていたので、2人で話し合い、今年は「とびきりおいしいショコラを求めて広い世界を旅していく」ストーリーを設定しました。「愛を伝えるバレンタイン」という従来の風習からは意外なテーマかもしれませんが、女子心をくすぐるようなエレガントさを出したいと思ったんです。
--旅といってもモチーフはさまざまかと思いますが、どのようにセレクトされたのでしょうか。
竹田:昔から旅行が好きだったので、まずは自分が旅したときに撮った写真から掘り起こしていきました。ときには自分のInstagram写真をそのままモチーフとして使ったものもあります。世界遺産や観光地の写真集もたくさん見たのですが、それよりも自分の楽しい記憶が重なる景色のほうが、いいイメージが生まれました。とはいえ商品とまったく無関係のビジュアルにするのではなく、ミュンヘンの石畳の街はタイル状のチョコレート、スイスの岩山のごつごつした感じはロッシェ(岩)、フルーツの似合うビーチリゾートはシトラス風味のメレ(小粒石)など、旅のイメージと商品をうまくかけ合わせました。
--3段の重箱になった「ショコラバリエ2016〜シェ ドゥ ショコラ」はまるで宝石箱のようで、これまた女子心をくすぐりますね。
竹田:なかなかのお値段なので、きっと自分用の特別ギフトになるでしょうね。男性用に買うには勇気がいるかもしれません(笑)。この商品だけは自分が行った場所でなく、トルコの気球の写真を参考にしました。裏側にはレトロな世界地図をあしらい、広い世界へと旅に出るワクワク感を演出しています。
--資生堂パーラーとのやり取りの中で新たな発見はありましたか。
竹田:デザインチームで考えていることと、現場で「売れるかどうか」の判断は違うものだと感じましたね。普段は広告が専門なので、パッケージ案件の仕事はこれが初挑戦だったんです。広告のデザインはあくまでイメージアピールが先行しますが、パッケージデザインは「デザインそのもの」を買ってもらうことになる。商品を手に取る人のことを思って手がけるデザインは、改めて「一人ひとりに思いを届ける」という気持ちに立ち返ることができ、個人的にも新しい発見がたくさんありました。数年前からパッケージをやりたいと言い続けてようやく叶ったので、ありったけの熱量を込めたという感じですね。ちなみに、イラストもすべて自分の手描きなんです。
--すべてご自身で描かれたんですか? デザインからイラストまで、相当の作業量だったのではないでしょうか。
竹田:下絵から版下作成まですべて自分でやりました。社会人になってからこんなにたくさんの絵を描いたのは初めてな気がします。自分の旅の記憶から掘り起こしたイメージなので、「あのとき見た、あの景色がキレイだった!」という感動があったから、大変な作業も頑張れたと思います。いわゆる世界遺産の絶景写真だけでは描ききれなかったかもしれません。
--ほかに、グラフィックデザイナーの竹田さんだからこそできた仕事や、こだわりはあったのでしょうか。
竹田:ビジュアルコミュニケーションにおいて、一貫した「世界観」を見せることに最も注力しました。キャンペーンをWEBで展開する際、商品のよさをアピールできるメインビジュアルがないと、せっかく素敵なパッケージデザインがあっても、その魅力はなかなか伝わりません。そこで今回初めて、SNSやWEBで流れたときに目を引くようなPR用のキービジュアルを作りました。ショッピングバッグも従来のシンプルな仕様から、クオリティを意識した特別感のあるものにしました。パッケージデザインは専門ではありませんが、商品だけではなく全体のコミュニケーションを考えるという点においては、世界観を表現するグラフィックデザイナーが担当することに意味があったんじゃないかと思っています。