
--まったく新しいスキンケアシステム「Optune(オプチューン)」のβ版が、今春まもなく発売となります。これはどういったブランドでしょうか?
山本:IoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術を取り入れることによって実現した、資生堂初のパーソナライズスキンケアブランドです。ユーザーには、スキンケアの際、「オプチューン アプリ」というスマホ専用アプリで肌を撮影し、肌状態を測定してもらいます。そして専用マシン「オプチューン ゼロ」に、現在の気分を入力していただく。すると「オプチューン ゼロ」は、アプリで計測された肌データと、ユーザーの入力した気分、そして毎日変わる天気や湿度、紫外線などの環境データを総合的に分析し、そのときのユーザーにぴったりのスキンケア(セラムとモイスチャライザー)を抽出する、という仕組みです。
--オプチューンについて、クリエイティブ部門としてどのような仕事を担当したのでしょうか。
山本:ブランドストーリーの策定から関わり、このブランドの存在意義とマニフェストを整理し、ペルソナやブランドのトーン&マナーを定義しました。同時に、ネーミングやロゴの制作、アプリやブランドサイトのディレクションやコミュニケーションのクリエイティブまで、マーケティング部門と一緒に試行錯誤しながら、ブランドを構成するさまざまな要素を、パズルを埋めるようにつくってきました。
--オプチューンのことを最初に聞いたとき、どのような印象を持ちましたか?
山本:チャレンジングで面白いブランドだと思いました。化粧品の常識、ひいては人々のスキンケア行動を変えてしまう可能性を持っているという意味で、電気自動車やスマートフォンのような、新しいスタンダードをつくるブランドだと思いましたね。
これまでのスキンケアでは、パッケージ化された既製品を毎日使っていました。ところがオプチューンでは、専用のデバイスを家に置き、スマホで肌を測定するところからスキンケアが始まる。このように、日々の行動をまったく違うものに変えてもらうことは、一筋縄で達成できることではないと思いました。
--その日の肌の状態に合わせて抽出されるスキンケアを使うといった、いままでの美容習慣にない行動を喚起するために、どのような点を意識されたのでしょうか?
山本:日常の行動を変えるという高いハードルを越えるためには、まず、オプチューンの提案する新習慣の良さをしっかりと認識してもらい、「そのほうが良い」という意識変革を起こす必要があります。そのためには、なぜこの方法が良いのかという「WHY」を明解に伝えることや、「未来」を感じさせる期待感や高揚感がポイントになると思いました。ただ、あまりに技術や革新を強調しすぎてしまうと、自分とは関係のない、遠いものだと思われてしまう可能性もあります。両方のバランスをとることを意識しました。
--ブランドサイトには、コンセプトとして「"いま"の肌に、いちばんいいもの。」という言葉を掲げられていますね。
山本:肌は、一人ひとりにとって固有のものです。そしてその状態も日々変化する。一人として、一日として同じ状態にならないそれぞれの肌に対して、適切なスキンケアを提供するオプチューンの魅力を伝えるために、「"いま"の肌に、いちばんいいもの。」と表現しました。オプチューンは1,000パターン以上もの組み合わせのなかから、その日のセラムとモイスチャライザーを配合して抽出するんです。
--ユーザーのイメージ像はどのようなものですか。
山本:身体や肌の変化と向き合い、自分自身を大事にする女性をペルソナとして設定しました。キーワードは、「Intelligent(聡明な)」「Advanced(先進的な)」「Comfort(心地良い)」。自己管理をしっかりとする、感度の高い女性でありながら、感性的にも満たされることを重視している人をイメージしています。
--これらのコンセプトやペルソナは、デザイン面にどのように生きていますか?
山本:「それぞれの肌に対しての最適解を目指す」というコンセプトは、まずブランドネームに込められています。「Optune(オプチューン)」は、「Optimize(最適化する)」と「Tune(調律する)」という二つの英単語を合わせてつくった言葉です。また、IoTでありながら「パーソナライズ」の温かみを表現するため、ロゴは手書きで制作しました。
--2017年11月末、オプチューンの発売告知を行なったイベント『Beauty goes Forward.』では、コンセプトモデル「Palm Stone(パームストーン)」も展示されました。
山本:「Palm Stone」は、未来のオプチューンをイメージしてつくったモデルです。丸みを帯びたマシン本体を両手で包み込むと、手のひらから気分や体調、肌の状態などが感知され、上部から最適なスキンケアが抽出される。ゆくゆくはオプチューンがこんな姿になったら、と思ってつくりました。
--両手で包む、というのは、どのような発想から生まれたのですか?
山本:パーソナライズスキンケアは、究極のスキンケアのあり方であり、先進的なものです。でもその根底には、肌にとって最高のソリューションを提供したいという普遍的な願いが込められています。だから、未来的なかたちばかりを追うのではなく、化粧行為としての豊かなひとときや体験をデザインしたいと思い、「手のひらで包むセンシング(計測)」というアイデアを採用しました。「未来」は「冷たい」というイメージとも表裏一体ですから、そうはしたくないと思ったのです。
赤ちゃんのほっぺを包んだり、お茶のお椀を包んだり、「包む」という行為には、人をリラックスさせるような良い所作があります。この美しい所作とセンシングとを結びつけ、本当の心地良さを実現するというのは、テクノロジーありきではなく、化粧品をつくってきた会社だからこそできる提案だと思います。
これからの新しいブランドやサービスづくりは、技術が先か、アイデアが先か、いずれもありうると思います。「このアイデアに、はたして技術がついてこられるのか」といったところも、エキサイティングですよね。「Palm Stone」のようなアイデアの提案が、社内の新しいインスピレーションにつながっていけば良いなと思います。
--現時点で、美容業界でのオプチューンの反応はいかがですか?
山本:業界内ではそれなりのニュースとして取り上げていただいています。今後一般女性の、なかでも美容意識の高い方々に向けて、どう届けていくのかというのが課題ですね。固定概念にしばられず、さまざまな手段をオープンに考えていきたいです。
--今後の展開について教えてください。
山本:β版を購入してくださるお客さまの募集が2月から始まります。「オプチューン」というブランドは、実際に使用されるお客さまの声も生かし、進化を重ねながらつくっていくことができたらと思っています。コミュニケーションのキーワードとして「New Discovery(新しい発見)」を掲げましたが、お客さまにとって新しいスキンケアの発見になるだけではなく、参加型で商品をつくっていくこのプロセス自体も、資生堂にとっての「New Discovery」にしていきたいと。
オプチューンの役目は、美容における一つの新しいスタンダードをつくること。そしてその体験を、技術と一緒になってデザインしていくのがわれわれの仕事だと思っています。今回のオプチューンの発表は、「こんなものをつくりました」という報告ではなく、むしろ「始まり」だと思います。