コロナの時代における、新たな集いと学びの可能性。杉浦太一×三浦遊対談

SHARE

新型コロナウイルスの拡大は、世界に多くの変化をもたらしました。医療体制や地域・経済格差といった、生命にかかわる深刻な状況も続くいっぽうで、働き方や教育のあり方にも変化が見られます。

資生堂のクリエイティブ・ディレクターである三浦遊が参加した、オンラインスクール「Inspire High」もその影響を受けています。クリエイティブ企業のCINRAが共同運営するこのサービスでは、各ジャンルのクリエイターや研究者がガイドとなり、10代の若者たちが交流し学びを得る場を提供。コロナ以降の社会的距離の確保を考慮したデザインを模索してきました。5月10日の回では、三浦の自宅から配信を行い、全国から参加する10代の若者とのセッションを行ないました。ですが、むしろそのイレギュラーな状況は、参加者の「学び」に、新しい示唆を与えたようです。

「Inspire High」のスタッフ宮崎慎也さん進行のもと、同サービス代表の杉浦太一さんと三浦遊がオンライン上に集まり、コロナ時代におけるコミュニケーションと学びについて語り合いました。

「Inspire High」は始まった瞬間から傍観者が一人もいなくて、みんなが参加している環境がすでにある。理想の社会の縮図があったと感じました。(三浦)

※本記事の対談は2020年6月19日に行われました。

宮崎 三浦さんに参加いただいた回は、新型コロナウイルスの影響でリモート配信という形態になりました。そのときのことを思い出しつつ、感想をいただけますでしょうか?

三浦遊登場回のダイジェスト動画

三浦遊

三浦 いろんな感想を持ちましたが、いちばん大きいのは「僕が若い人たちにコーチした」といった経験ではなかったことですね。「Inspire High」では僕らゲスト講師のことを「ガイド」と呼びますが、それは文字どおり案内する人のことであって、一方的にレクチャーしたり指導するものではないんです。10代の次世代の人たちと話をすることができて、むしろ僕のほうが勉強になった、というのが正直なところです。

宮崎 「美しいモノゴトを見つける」というテーマで、参加者から写真を送ってもらいました。

三浦 いろんな視点が届くだろうなと思っていましたが、どれも本当にピュアな視点が感じられて驚きました。あのとき「直感的」という話をしましたけど、直感こそが人に訴える力があるということに気づかされました。彼 / 彼女たちはそれを「直感」とすら思ってないかもしれないですけど、言葉がないぶん、写真はダイレクトにいろんなものが伝わってきますね。

それと、オンライン配信なのでやりとりは主にメッセージ、ときどき声だったでしょう。年齢差が露わにならないのもよかったし、ナビゲート役として清水イアンさんが入ってくれたおかげで、一方的に僕ら大人が喋り続けることがないのもよかった。つまり、講義形式とは違うフラットさがあったんです。

宮崎 以前、三浦さんも「若い世代向けの講義だと、生徒に目線を合わせる意識が必要になる」とおっしゃっていました。それってどうしても、「教える側と教わる側」の立場の差みたいなものを生んでしまいます。

三浦 それって会社も同じなんです。会議でも何でも、全員の参加意欲を駆り立てようと思うと時間がかかりますよね。だけど「Inspire High」は始まった瞬間から傍観者が一人もいなくて、みんなが参加してる環境がすでにある。それは議論を前進させてくれます。社会においても必要なことで、「Inspire High」にはその理想の縮図があったと感じました。

杉浦 ありがたすぎる感想です。

宮崎 杉浦さんも、そういった環境づくりは意識されていましたよね。

杉浦 理想はもちろんありましたけど、これまで模索し続けてきて、ようやく今回のかたちになったという感じです。

「ガイド」の肩書きも、まさに最初のうちは僕らも「誰を講師にしようか?」なんてマインドで話し合いをしていたんですよ。もちろんガイドになりうる人は自分たちよりも何かに精通した人物なんですけど、講師って立場はそもそもオンステージな、一方通行なコミュニケーションに収まってしまいがちで「それって学びにとってどうなんだ……?」って議論もずっとしてきました。

杉浦太一さん(CINRA / Inspire High)

宮崎 「TEDにはしたくないよね」(TED=ニューヨークを拠点に、世界各国の知識人によるスピーチ動画を配信するサービス)って話は、「Inspire High」を作るときに言っていましたよね。もちろんTEDのよさもあるけれど、特定の個人にスポットライトを当てない学びがあるんじゃないか、って。

杉浦 そう。それから三浦さんのご自宅からの配信だったこともプラスでしたね。話が盛り上がると三浦さんがいろんな場所から本をひっぱり出してくるから、それでインスパイアされて。僕も、後日『数の歴史』(創元社)を買っちゃいました(笑)。

三浦 逆に言えば、ふだん勤めているオフィスって「箱」なので何もないんですよ。クリエーションするときに自分が刺激を受けるものは家のなかにこそたくさんある。だから、コロナウイルスの影響を受けて在宅勤務になったのは、じつはめちゃくちゃよかったです。インスピレーションの源泉が半径3メートル以内にあるから、クリエイティビティがむしろ増すんです。

数での評価をしない設計にしたんです。その甲斐あって、みんながそれぞれであることが尊重される良質なコミュニティができていると思っています。(杉浦)

宮崎 海外の教育実践を多数見て回った経験も「Inspire High」に大きな影響を与えていると思います。

杉浦 「Expand Your Horizons.」というスローガンを掲げていることもあって、自分の世界をいっぱい広げていくイメージは最初からありました。誰しも自分の世界を広げたいという気持ちはあると思うんですが、そのきっかけになるスイッチや好奇心との出会いってかなり偶発的で運まかせです。そのきっかけが常にある場所を作りたい、というのが当初からの目的でした。教育学、あるいは脳神経医学の分野でも、そういったスイッチを入れるメカニズムは研究されていて、そのリサーチとして世界中を回りました。

「Inspire High」(インスパイア・ハイ)は、クリエイティブな大人たちと答えのない問いに向き合う、13〜19歳のためのオンラインスクール。隔週日曜日に開催されるライブ配信セッションを通して、普段ふれあう機会の少ないアーティストや起業家、研究者などクリエイティブに生きる大人たちと、答えのない問いについて考え、共有しあいます。スマートフォンとインターネットさえあればどこからでも参加できるサービスです。(サイトを見る

杉浦 たとえば、デンマークにある「KAOSPILOT(カオスパイロット)」は、クリエイティビティを中心にした起業家育成スクール。コペンハーゲンから電車で2〜3時間の街・オーフスにあって、いかにイノベーションを起こすかってことをミッションに、約25年続いています。そこでクリスター・ヴィンダルリッツシリウス校長が言っていて面白かったのが、フィードバックは許可制ってことです。

三浦 へえ。

杉浦 どこの学校でも学生に対して「ここはこうすればいいよ」って言うじゃないですか。それが教師の仕事とすら思われていますけど、KAOSPILOTでは学生に対して「いまフィードバックしていい?」って聞くんです。そこでもしも本人が「いまはダメです」と言ったら、絶対にしない。つまり、フィードバックっていうのは相手のためであって、相手が受け入れられない状態でやっても仕方ない、って考え方なんです。そういう関係性って、人の主体性や、その人自ら成長することを信じているからできること。

三浦 面白いですね。以前、資生堂のプログラムでアメリカ・スタンフォード大学院のビジネススクールに通ったことがありました。いろんな講座があるんですけど、いちばん面白かったのはブロードウェイの舞台監督をしている人の講座で、彼は人と人との対話の関係性のベーシックなところを教えてくれたんですね。会社や経営という場であっても、まずは人と人とのコミュニケーションなんだってことをきちんと押さえるべきだと。たとえば、「こういう態度は高圧的にとられるよね」とか。相手のことをよく見て、感じて対話をすることの大切さは、いまの杉浦さんの話にも通じるなと思います。

杉浦 関係性の構築で言うと、サンフランシスコの「Millennium School(ミレニアム・スクール)」から学ぶことも多かったですね。日本だと中学校にあたるんですけど、ここの生徒は自分で自分を評価するんですよ。「自分がどのくらい批評的だと思うか?」という項目に対して、生徒自身が評価をして、それを先生が見て、意見を加えたりすり合わせをしていく。日本の企業でも同様のことをしているところはありますが、それを中学生にやらせちゃう、しかも批評性とか好奇心とか定量化できない要素について自分で振り返ることをしている。それはもう、自然と面白い人が育ってきそうじゃないですか。

「Inspire High」でも、当初はゲーミフィケーション的な要素を採用して、参加度が高いかフィードバックをたくさんしたらポイントがもらえる設計にする案もありました。でも、そういった「報酬」の要素は、学びの主体性を獲得するうえでは毒だったりもする。たとえば、中高生のなかにも競争意識が強くてマウンティングしちゃうような子もいますから。だからなるべく、数で評価することをしない設計にしたんです。その甲斐あって、ヒエラルカルな世界を避けた、みんながそれぞれであることが尊重されて、互いに尊重し合う良質なコミュニティができていると思っています。

KAOSPILOT 授業の合間の休み時間の光景
Millennium Schoolの授業風景

三浦 閉鎖的にしない仕組みですよね。うちは小学生の子どもがいて、コロナの影響を受けて家の中でリモート授業をやっているんですけど、この変化はかなりポジティブに受け取っています。

朝はタブレットのEラーニングから始まり、先生からの朝のメッセージを受け取って、簡単なクイック学習をする。僕も子どもと一緒に先生の言葉やその日やっていることを逐一見ることができる。結果、ものすごくオープンな教育現場になっています。たまにある生徒たちのZOOM集会に、ときどき僕が見切れちゃったりしてね(笑)。

これまでは担任の先生とのやりとりって、せいぜい入学式や運動会で挨拶するぐらいだったじゃないですか。そのあとの関わりがほとんどゼロになってしまうけれど、リモート授業になって、先生の人柄を思い浮かべながら子どもたちの教育環境に触れることができる。この教育のオープン化はかなり画期的です。ある意味では、寺子屋みたいな地域コミュニティのよさが復活しているようにも思います。

どの会社にもカルチャーが存在していて、それは外の視線によって気付かされる。さまざまな人たちとの関わりや出会いによって「らしさ」も変わっていく。(三浦)

宮崎 資生堂でも、学びや教育についての新しい試みはありますか?

三浦 さっき言ったようなビジネススクールでの海外研修やオンラインプログラムも最近は積極的に取り入れています。ただそれは教育であると同時に、資生堂が持っている自前のDNAをどう活用していくかを知る機会だと思っています。だから講義というよりは意見交換、フラットな議論の場として機能することが多いですね。

杉浦 資生堂といえば、書体を手描きするといったクリエイティブな学びの伝統がありますよね?

三浦 資生堂書体や唐草ですね。でもこれも、うまく書体を書けるようになるべし、といったものではないんです。「唐草とはこうである」みたいな構造もじつは決まってないですしね。書体を通じて先人たちの思想概念を受け取って、自分なりの理解や方法を深めていくプロセス。東洋と西洋のハイブリッドであり、根源的な生命力の意匠化が唐草ですが、それを介したコミュニケーションのミーム、変遷する美のエコシステムというか。

資生堂書体「美と、あそびま書。」

杉浦 そのゆるやかな蓄積と伝達が、僕のような外にいる人間からすると「資生堂らしさ」を生んでいるようにも思うんです。書体や唐草のような具体的な造形にも感じますが、資生堂の社員の方と話していても、何か共通項のようなものを感じるんです。自分が会社を経営しているので思うことですが、企業って業績やミッションの目標を示すことによってドライブしていくものじゃないですか。でも、資生堂のみなさんにはそれとは違う指針とも言えるような「らしさ」を感じます。

三浦 僕はCINRAさんにも「CINRAらしさ」を感じますよ。どの会社にもカルチャーが存在していて、多くの場合、それは内側よりも外側の視線によって気付かされる。そうである以上、さまざまな人たちとの関わりや出会いによって「らしさ」も変わっていく。ちなみに今日は杉浦さんとお話しできて、僕はCINRAらしさのど真ん中を感じてますよ(笑)。

杉浦 そうですか! そんなに自分が「CINRAらしい」とは思わないけどなあ(笑)。

三浦 「らしさ」って形容しがたいものなんだと思います。

杉浦 だからこそ長い時間のなかで失われるのも「らしさ」であって。それを変化しつつ100年以上受け継いでいる資生堂の存在が、僕はとても気になるわけです。

次の時代の人たちが見たいのは、本当にドキドキするもの。作り手すらどこに着地するかわからないようなものを見たいと思っている気がします。(杉浦)

三浦 でも、いまは資生堂の150年の時間のなかでも、かなり激しい変化の時代かもしれません。この対談のようなリモート型の環境は、確実に何かを変えていますよね。たとえば、関係性のフラットさであったり。

宮崎 「Inspire High」では参加者同士を結んでブレイクアウトの時間を設けることもあるのですが、先日は愛媛、奈良、東京の方たちが参加してくれました。ちょうど「Black Lives Matter」の運動が起きているタイミングで、そういった運動や自然環境の変化に対して何かできればいいねって話題で盛り上がったのですが、ふと年齢を聞いてみると、中3、高1、高3とかなりのばらつきがあったことに全員が驚かされました。年齢差を感じないぐらいフラットなコミュニケーションが取れていたから。

杉浦 そういった関係性のありようを目撃してしまうと、言葉や文化の壁を超えて、国境だって越えたい放題の時代じゃないか、って実感します。

三浦 だからなのかな。「Inspire High」は関係者含めてみんな生き生きしているように感じました。当初、僕が参加する回は、資生堂社屋内から行う予定でしたよね。でも、会社という空間でやっていたとしたら、僕も「会社の人」「資生堂の人」としてガイドしてたと思うんです。けれども、自宅からの配信となると、僕自身のアイデンティティも混ざってくる。家は僕自身の居場所でもあるし、親としての責任感が発揮される場所でもあるから、「10代の人たちに、てきとうなことは言えないぞ」って意識がむしろ生まれてくる。もちろん会社でもてきとうなことは言わないですけど。たぶんね(笑)。

杉浦 現在のクリエイティブで大事なのは、クオリティだけではくリアリティだと思っているんですよ。最高級の収録環境で「さあ、資生堂からいらっしゃった三浦さん、どうぞ!」と話してもらうことには高いクオリティが保証されるけど、それよりも画質も音響も照明も程度が落ちてしまう環境であるほうがリアリティが増すなんてことはいくらでもある。

三浦さん自身にスマホを持ってもらって、たまにカメラががたがた揺れちゃうくらいのハプニングがあったほうが、良質な場と言えるんじゃないか。発信する側も受け取る側も「何これ面白い!」と、自ずと前傾姿勢になるようなあり方が、今後のクリエイティブやコミュニケーションなのかなあ、と思います。

三浦 それは現場の感覚としても腑に落ちますね。企画段階ではちゃんとプランを設計しますけど、現場ではむしろそこに予定されてないハプニングを狙っていくし、それがポジティブな結果を生んでくれるものです。

杉浦 きらびやかで美しい表層的なビジュアルは、あらゆる分野で、ある意味での頂点に達していると感じます。それに対して次の時代の人たちが見たいのは、本当にドキドキするもの。作り手すらどこに着地するかわからないようなものを、みんな見たいと思っている気がしますね。

三浦 つまり、大事なのはコンテクストと表現の一致なんですよね。みんながスマホをツールとして表現していく時代のコンテクストと、表現が一致していくことで、表層的なクオリティ以上のメッセージを送ることができる。今回の配信でみなさんが送ってくれた写真がとても素晴らしいものに感じられたのは、まさにその一致があるからだと、いまわかりました。

テキスト:島貫泰介

 

Profiles
  • 杉浦 太一 | CINRA / Inspire High
    CINRA, Inc.代表取締役。1982年東京生まれ。学生時代にCINRAを立ち上げ、2006年株式会社化。自社メディア運営やデジタルマーケティングに従事。2020年2月、13〜19歳向けに『Inspire High』をスタート。ミッションは、「人に変化を、世界に想像力を。」
  • 三浦 遊 | クリエイティブディレクター
    東京芸術大学デザイン科卒業後、資生堂入社。2014-2017 NY、Parisに駐在。2017-2019「ブランドSHISIEDO」グローバルキャンペーンのクリエイティブディレクション。2020年現在、「MAQuillAGE」、コーポレートコミュニケーション全般を担当。主な受賞、毎日広告デザイン賞 / 東京新聞広告賞 / 広告電通賞 / 中国国際広告祭 / APA Award / DSA Award Gold / if Design Award Gold / FRAME Design Award Gold / One Show Bronze。
SHARE
このページの先頭へ