時代を超えるスタイルとは。仲條正義と紐解く資生堂パーラーのパッケージリニューアル。

SHARE

*本記事の対談は2019年12月17日に行われました。遅延しての公開となりますこと予めご了承ください。(2020年5月29日現在)

2019年11月に資生堂パーラー銀座本店がリニューアルしました。それに伴い、本店限定商品のパッケージデザインを86歳にして手がけた仲條正義さん。今もなお精力的に新しいデザインを発表する仲條さんが手がける新しいパッケージには、レッドやブルー、千鳥格子、愛らしいグラフィックが際立ち、胸を高鳴らせます。コンセプトは「『銀座八丁目物語』 〜銀座八丁目からあらたな歴史を〜。

「シック(chic)」とは? 時代を超えるセンスとは? 仲條さんと新しいパッケージ制作を一緒に進めた資生堂のパッケージデザイナーの浜田佐知子、そして、以前より仲條さんから多くの刺激を受けてきた資生堂のデザイナー陣(高橋歩、丸橋桂、髙田大資)と一緒に仲條さんに話を聞きました。

リニューアルした資生堂パーラー銀座本店の限定パッケージ

僕は、パソコンとか機械はできないからね。(仲條)

ーー これまでの資生堂パーラー銀座本店の限定パッケージは、劇場のスポットライトや緞帳をイメージしたデザインでしたが、今回はもっと抽象的ですね。そして千鳥格子が印象的です。今日は仲條さんだけではなく、資生堂パーラーのデザインを担当している浜田さんや、これまで仲條さんとお仕事をご一緒してきたみなさんに、仲條さんと資生堂のデザインについてお話をうかがおうと思っています。

仲條 みんな僕の前では本当のことなんて言わないよ(笑)。僕はパソコンが使えないから。手描きしたデザインをコピーして、その紙を切ってセロテープで貼ってね。浜田さんたちスタッフにも手伝ってもらって。

浜田 先生からデザイン原画がFAXで届くんです。今日は試作段階の原画を持ってきました。

仲條 最初は箱だったね。テープとはさみでカラーコピーを切り貼りして。この黒いやつが最初に作ったやつ。

 

浜田:他の図案にも、当時は子どもや犬のイラストが入っていました。

試作段階のデザインデータの一部

 

仲條 今回大きく打ち出している千鳥格子はパッと思い浮かんだのね。コンセプトが「銀座八丁目物語」でしょう。銀座は僕が子どものときから大好きな街で、ファッションの記憶ともすごく結びついている街なんだよ。

僕は人生においてファッションをとても重要なものだと思っているので、広告もパッケージもモード的でないとダメだって考えている。若いときに見ていたのも『VOGUE』とか『ハーパーズ バザー』だったからね。デザインやアートの雑誌なんてほとんど目もくれなかったくらい。それでファッションと伝統ってことを考えて出てきたのが千鳥。

浜田 千鳥の案になる前から、ファッションに使われる古典の模様、柄の話をしていましたよね。アーガイルとかチェックとか。そのなかで選ばれたのが千鳥格子で、たくさん集めた図案を先生にお送りして、そこからデザインが始まりました。

高橋 資生堂パーラーは老舗の歴史あるお店ですし、由緒正しさがありますよね。でも何年かごとにデザインは変えてきた。その意図はどこにあったのでしょう?

仲條 中身も買う人も変わっていくからね。箱も変わっていかないと、古くさくなってしまう。

浜田 今回の銀座本店限定品のリニューアルは本店の内装が大きく変わったのがきっかけです。だけど商品の中にはパッケージが変わらないものもあります。シガーアマンドはずっと続いていますね。それから花椿ビスケット缶もそう。

仲條 包装紙のリニューアルは髙田(大資)くんに手伝ってもらったけれど、あの原点は初代の資生堂社長がパリに行って買ってきた本の装幀だったんだよ。そこに字をちょっと加えてできたのが資生堂最初の包装紙。唐草をはり合わせるのが難しかった。つなぎがね。

仲條正義さん

ーー この箱の8の字マークも特徴的ですね。

仲條 八丁目限定だから8。

浜田 よく考えれば海外だとStreetとかAvenueとかあるけど、日本は「通り」じゃなくて「丁目」じゃないですか。悩んだ結果、じゃあ「丁目」は取ってしまって8だけにしちゃおうと。銀座八丁目から世界に発信するイメージだと、先生はおっしゃっていて。

仲條 言ったっけ? 昭和というか、野暮ったさだね。

丸橋 クラシックなデザインですよね。それが映えてる。

浜田 でも作ったあとに驚いたのが、今年(取材時は2019年12月)は千鳥格子、流行っていますよね。銀座を歩いていると、多くのファッションブランドで使われていて。まさに「先読み」ですね。

左から:仲條正義さん、丸橋桂(資生堂)

 

仲條 そこが僕のエラいところだね。天から降ってくるんですよ。天啓。

高橋 いやいや、仲條さんはやっぱりちゃんと見ていると思いますよ。ご本人は「僕は昭和の化石だから」なんて言って、じつは常に見てる。情報のインプットにアンテナを張ってるのがわかる。

仲條 そうかい? カンだよ。

高橋 カンは、はずれることはないですか?

仲條 わからない。たまにはずれる(笑)。

浜田 ご一緒していて、試行錯誤の中で生まれていくところを私は目撃しました。最初あった動物のイラストが、あるとき急になくなったり。そのとき先生は「柄が安っぽく見える」とおっしゃってました。

そこから色のトーンを絞る作業で。色見本帳から柔らかい色を選んで、校正刷りが上がったあとも「ここは赤にしよう」と変えたりとか。色はかなり手を入れてました。ひょっとして、今でもまだ変えたいところありますか?(笑)

仲條 ちょっとあるね(笑)。でも、大したことないよ。側面に入れてる片仮名なんておしゃれでもなんでもないでしょ?

 

浜田 「バカっぽく組んでくれ」とおっしゃってました。それで文字間をぐっと空けて。

仲條 このへんの遊びは勤め人(のデザイナー)にはなかなかできないでしょう? フリーの気楽さだね。

ーー 今回仲條さんのコンセプト文の中で、「シック」がテーマとありました。シックという言葉からイメージする色は、黒とか紺とか、わりと落ち着いたイメージですが、選ばれたのは赤ですね。

仲條 今は違うかもしれないけど、昔は「シック」は、キザったらしくて下品な感じで受け止められていた。けど、シックは「エレガンス」で上等なおしゃれさ。ファッションの基本だよね。シャネルとかイヴ・サンローランが持っている変わらない美しさ。ずっと変わらないセンスは、ずっと古びない。

最近の新しいものはどんどん消費されていって、伝統でもなんでもなくなっちゃってるよね。つまり継続性を持てないと、文化ってものにはなっていかないんだ。会社もブランドも商品も。

野暮ったさっていうのは、じつはものすごく重要。(浜田)

ーー みなさんから見た仲條さんの今回のデザインについてお聞きしましょうか。浜田さんは資生堂パーラーの担当をずっと続けてらっしゃるんですよね。

浜田 2016年からなので約3年ですね。パーラーはやはり、お菓子のパッケージ、仲條さんのデザインの強烈さがあるんですよね。そのインパクトの強さに対して、いかに馴染むものを作るか、入れていけるかが歴代担当者の大きな課題です。私なんかは、何かあるとすぐに仲條さんに話を聞いちゃってます。そうすると「ここに文字を入れたら?」とかコメントをくださるんです。

ーーそのときの仲條さんも、今日みたいに飄々とした雰囲気で?

浜田 そうですね。「ヌケ感」みたいなものにすごくこだわりがある、というか。私なんかはどうしてもきれいにデザインしちゃいがちなんですけど、そうすると仲條さんから「おしゃれだね」って言われる。

ーーそれは褒めているというよりも……。

浜田 ある種の皮肉として。「おしゃれにまとまっちゃっててダメだね」ってことだと理解しています。だから野暮ったさっていうのは、じつはものすごく重要。

浜田佐知子(資生堂)

高橋 今回の場合は、片仮名のフォントなんかにそれがよくあらわれてるよね。

浜田 ふつう、こんな風には入れないですよね。

(デザイナー陣、うなずく)

ーー 落し物をしてもちゃんと届きそうな目立ち方で(笑)。

高橋 まるで創業時から同じパッケージで続いてきたかのように感じさせる老舗のデザインのように思います。新しいのに、歴史があるように感じさせる。

浜田 この文字がなかったらきれいすぎちゃう。今風すぎるんです。

高橋 このかたちの缶を選んだ時点で、ある種の古くささを逆手に取ろうとしてるんですよね。

高橋歩(資生堂)

 

浜田 形状の細部にもこだわりを持たれていて「もっと角の尖ったものはないの?」とおっしゃっていました。

箱の蓋の側面の深さも最初はだいぶ長深かったんですけど、身箱の千鳥格子をもうちょっと見せたいから、と短くされて。全体を覆ってるほうがきれいだけど、あえて寸足らずみたいにしちゃったり。

ーー シャネルの女性服を思い起こさせますね。内箱の千鳥がスカートで、外箱がジャケット。

浜田 下からちょっとだけシャツをはみ出させて、あえて見せる感じ。粋なんです。

ーー 足し引きの美学がありますね。

ゆるぎないところがありつつ、ゆらぎがないとダメなの。(仲條)

仲條 「モード」ってものが大事だね。そこには伝統があって、人々の体に長くしみついた文化のリアリティがある。住宅があり、着物があり、食事があり。

そういうところからモードやファッションが発生する。その核には生きるセンス、美意識がある。

高橋 それを自分のなかでしっかり持ち、磨いていれば、どんな時代であっても……。

仲條 ゆるぎないよね。三宅一生の世代はこれまでのものを壊して前進したけれど、モードが身についているからぶれないし、必ず戻ってこれる。高田賢三もそう。

高橋 以前、仲條さんと仕事をご一緒させていただいたとき、ファッションはどんどん変わっていくもので、今の流行りはすぐに古くさくなるものだっておしゃってました。今日はむしろゆるぎないものがファッションにはあるとおっしゃっていて、それは新しい視点だなと思って聞いていました。

仲條 もちろん、水が流れるように変わっていくんだよ。でもそれは川みたいに流れてくだけじゃなくて、円を描くように巡っているんだよ。時代がちょっと行き過ぎたとき、昔のスタイルが戻ってくるかもしれないよね。

ところで今回の仕事は、僕の最後の仕事だと思ってるんだけどさ……。

丸橋 この前の仕事のときも「最後だ!」っておっしゃってましたよ(苦笑)。

仲條 そうだっけ(笑)。いや、いつもそういうつもりで仕事してるってことだよ。僕はちょっと偏ったデザイナーで、そんなに売れる必要のないものをやってきて、だいぶ恵まれた一生だったと思ってます。

大学を卒業してすぐに資生堂に入社して3年間お世話になって、退社してからはしばらく縁がなかったけれど『花椿』のリニューアルで声をかけられて、それから40年。いったん『花椿』が終わりそうになったら、今度は資生堂パーラーのほうでまた話があって。資生堂には足を向けて寝られないねえ。

ーー 本当に長い付き合いだと思います。では、仲條さんにとって「資生堂らしさ」とは何でしょうか?

仲條 うーん。僕はね、全部自分で手を動かしてやるんですよ。でも、今の資生堂の人たちは、自分でやらないでしょ。肝心なところを人に任しちゃう。だからぜんぜん進歩しないんだ。

浜田 手を動かせってことですね(苦笑)。

仲條 日々、悩みながらやってんだ。それはものすごく面白い仕事なんだから、人にやらしちゃあもったいない。

丸橋 それがスタイルを生むんですね。そしてスタイルを人に渡すなと。

仲條 そうだね。僕は欲張りだからさ。

 

高橋 仲條さんが手掛けてこられた、ザ・ギンザやパーラーのパッケージデザインは一般的な資生堂の王道からそこからちょっと外れているかもしれないですけど、でも今やそこに資生堂のアイデンティティがあるように思うんですよね。

仲條さんのデザインにはカテゴライズできない難しさがあります。資生堂のデザインを大きく言えば、非常に緻密に作っていく、ディティールを追求していく姿勢があって、入社後の僕もそのように教わりました。でも、仲條さんと仕事したときは「きっちりやるな!」と真逆のことを言われる(笑)。

仲條 そんなこと言ったかなあ。

高橋 文字間をきっちり詰めるような、そんな野暮ったいことをするんじゃない、と。真逆の思想で驚きました。

仲條 それはそうだよ。少しスキを作らないと、人は付き合ってくれないんだから。ゆるぎないところがありつつ、ゆらぎがないとダメなの。

インタビュー・テキスト:島貫 泰介
撮影:豊島 望

Profiles
  • 仲條 正義 | グラフィックデザイナー
    1933年東京生まれ。1956年東京芸術大学美術学部図案科卒業。同年、資生堂宣伝部入社。1959年(株)デスカ入社。1960年フリーとなり、1961年(株)仲條デザイン事務所設立。資生堂企業文化誌『花椿』、ザ・ギンザ/タクティクスデザインのアートディレクション及びデザイン。松屋銀座、ワコールスパイラル、東京都現代美術館、細見美術館のCI計画。資生堂パーラーのロゴタイプ及びパッケージデザイン。東京銀座資生堂ビルのロゴ及びサイン計画などグラフィックデザインを中心に活動。TDC会員金賞、ADC会員最高賞、JAGDA亀倉雄策賞、毎日デザイン賞、日本宣伝賞山名賞ほか多数受賞。紫綬褒章、旭日小綬章受章。

  • 浜田 佐知子 | デザイナー
    1984年生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。2007年資生堂入社。2016年より資生堂パーラー勤務。
  • 高橋 歩 | クリエイティブディレクター
    1967年生まれ。東京藝術大学大学院修了後、資生堂入社。2005年~2009年ヨーロッパ駐在。主な仕事に、SHISEIDO MEN、マキアージュなど。
  • 丸橋 桂 | アートディレクター
    東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。1998年、資生堂入社。 東京ADC賞、JAGDA新人賞、ディスプレイ大賞産業奨励賞、 毎日デザイン賞優秀賞、日経広告賞優秀賞、空間デザイン賞2016金賞 2018年から花椿アートディレクター。
  • 髙田 大資 | アートディレクター
    1985年生まれ、三重県出身。2009年多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。主な仕事は、「ANESSA」「MAQuillAGE」、資生堂パーラーのパッケージ、ウィンドウディスプレイなど。
SHARE
このページの先頭へ